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新規降圧薬LCZ696が左室駆出率の保持された心不全患者のNT-proBNPを有意に低下(PARAMOUNT試験)

The Angiotensin Receptor Neprilysin Inhibitor LCZ696 in Heart Failure with Preserved Ejection Fraction(PARAMOUNT)

新規降圧薬LCZ696が左室駆出率の保持された心不全患者のNT-proBNPを有意に低下(PARAMOUNT試験)

 これまでの降圧薬とは異なる全く新しいコンセプトの新規薬剤LCZ696が,左室駆出率の保持された心不全患者で,アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)と比べ,心筋ストレスマーカーのN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)を有意に低下させることが示された。米国のブリガム・アンド・ウィメンズ病院のScott D. Solomon氏が報告した。

 近年,左室駆出率が保持された心不全の患者が増加しており,心不全患者全体の約半数に及ぶとされる。拡張機能の異常やナトリウム排泄反応の減弱などが病態として考えられており,これまで既存の降圧薬を用いた薬物療法が検討されてきたが,未だ有効な治療法は確立されていない。新規薬剤のLCZ696はネプリライシン阻害薬とARB・バルサルタンとの混合化合物で,アンジオテンシンⅡ受容体阻害作用と同時に,BNPなどの内因性ナトリウム利尿ペプチドの分解にかかわる中性エンドペプチダーゼのネプリライシンを阻害し,内因性ナトリウム利尿ペプチドの分解抑制作用を示すことから,心不全改善効果が期待されている。

 試験の対象は40歳以上の左室駆出率が保持された心不全患者301人。これらの患者を無作為にLCZ696群(149人)とバルサルタン群(152人)に割り付けた。一次エンドポイントは投与12週後のNT-proBNPの変化。二次エンドポイントは36週後の心臓の組織および機能の変化と安全性とした。

 その結果,LCZ696群では12週後のNT-proBNPがバルサルタン群に比べて有意に23%低下することが確認された。さらにLCZ696群では36週後の左房容積と左房径の有意な減少,およびNYHA心機能分類の有意な改善も示された。

 今回の結果からSolomon氏は,“LCZ696 in the PARAMOUNT study is the first compound to show both reduction in NT-proBNP and left atrial size in HFpEF patients, each powerful predictors of outcome in heart failure”(HFpEF:左室駆出率の保持された心不全)と述べ,LCZ696が左室駆出率の保持された心不全患者の治療に有用である可能性が示唆されたと結んだ。(渡部 桂子・医学ライター)

■試験の概要

対象  

40歳以上のNYHA心機能分類Ⅱ~Ⅳ度の慢性心不全患者301人
・左室駆出率≧45%
・血清NT-proBNP>400pg/mL

     
方法  

多施設共同無作為化二重盲検比較試験(第Ⅱ相試験)
・LCZ696群:149人
 ※投与開始1週目は50mg,2週目は100mg,以降36週目までは200mgをそれぞれ1日2回投与
・バルサルタン群:152人
 ※投与開始1週目は40mg,2週目は80mg,以降36週目までは160mgをそれぞれ1日2回投与

     
結果
<一次エンドポイント>

  LCZ696
(pg/mL)
バルサルタン
(pg/mL)
p値 LCZ696/
バルサルタン比
(95%信頼区間)

NT-proBNPの変化
(ベースライン-12週後)
-178 -27 0.005 0.77
(0.64~0.92)

※36週まで投与継続。LCZ696群では12週後もNT-proBNPの低下が維持されたが,バルサルタン群でも12週から36週までの間で低下したため,36週後は両群間に有意差なし。

<二次エンドポイント>

  12週後
p値(vs. バルサルタン群)
36週後
p値(vs. バルサルタン群)

LCZ696群の左房容積の減少 0.18 0.003
LCZ696群の左房径の減少 0.07 0.03
LCZ696群のNYHA心機能分類改善 0.11 0.05

その他(vs. バルサルタン群)
・血圧
 - 12週後の収縮期血圧はLCZ696群で有意に低下(p=0.001)。
 - 36週後の収縮期および拡張期血圧はLCZ696群で有意に低下(p=0.006,p=0.001)。
 - 血圧とNT-proBNPの相関は低く(r=0.104,p=0.1),LCZ696の降圧効果を補正しても,
  12週後のNT-proBNPはLCZ696群で有意に低下(p=0.01)。
・左室拡張機能,左室容積,左室駆出率,左室重量で両群に有意差なし。

安全性

  LCZ696群
n(%)
バルサルタン群
n(%)
p値

重篤な有害事象
・死亡
・全心イベント
・心不全
22(15)
1(0.7)
9(6.0)
4(2.7)
30(20)
2(1.3)
12(7.9)
6(3.9)
0.32
0.99
0.69
0.77
全有害事象 96(64) 111(73) 0.14

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