学会長の安藤千春氏

学会長の安藤千春氏

 第15回日本医学英語教育学会学術集会(会長:獨協医科大学特任教授・安藤千春氏)が,去る7月21~22日の2日間,東京のホテルグランドヒル市ヶ谷にて開催された。
本学会は医療従事者および医学英語教育者を主な会員とし,年1回の学術集会開催のほか,医学英語に特化した検定試験「日本医学英語検定試験」の実施など,本邦の医学英語教育の向上に向けて積極的に活動している。

 ここでは,本学会の中から2つのトピックを紹介する。

 

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 学会1日目には,「日本医学英語検定試験の現状と展望」と題するシンポジウムが行われ,日本医学英語検定試験(以下,医英検)の活動状況が報告された。その中で,一杉正仁氏(獨協医科大学法医学講座准教授)からは過去5回実施された医英検の“質”に関する分析・評価の結果について,伊藤昌徳氏(順天堂大学附属浦安病院脳神経外科教授)からは今年開始となった難易度の高い上級試験(2級)についての報告があった。その概要は以下のとおり。

継続的な自己評価で医英検の品質を向上

医英検の幅広い活用を期待する一杉氏

医英検の幅広い活用を期待する一杉氏

 医英検は,医学英語の実践的な運用能力を総合的に評価することを目的とした全国規模の検定試験。2008年に開始され,これまでに3級,4級の試験が5回実施された。4級は「基礎的な医学英語運用能力を有するレベル(医科大学・医療系大学在学あるいは卒業程度)」,3級は「英語で医療に従事できるレベル(医師・看護師・医療従事者,通訳・翻訳者,等)」と規定されている。日本医学英語教育学会では,医英検が医学界にとどまらず社会に広く認められるために,これまでに実施された試験の問題を自己評価し,検定試験としての質の向上に取り組んでいる。一杉氏は,過去5回の評価結果と,品質向上のための取り組みを紹介した。

 

・独立した組織が試験内容を評価

 試験問題の評価は,問題を作成する組織とは別に設置された「解析評価小委員会」によって行われている。評価の視点は,「現場で本当に必要な医学英語を問うているか,記憶だけでなく問題解決能力が必要な問題になっているか,極端に難しい問題,あるいは簡単な問題になっていないか,問題量が多すぎないか,問題は良質であるか」という点だ。これらを受験者の成績とアンケートへの回答を解析して評価し,その結果を作問担当の組織にフィードバックすることで,試験問題の品質向上を図っているという。
 3級,4級の過去5回の本試験の解析結果をみると,平均得点率は3級が63.3~74.5%,4級が62.2~72.5%の範囲で推移している。このことから,妥当な難易度が過去5回にわたって維持されてきたことがわかる。また良問かどうかの指標となる識別指数(0.2以上が良問とされる)は3級が0.32~0.46,4級が0.38~0.47の範囲で推移しており,いずれも良問だったと判断された。

 一方,受験者の主観的評価について,本試験前に行われたパイロット試験の解析結果が示された。1回目と2回目のパイロット試験受験者へのアンケートによると,受験者が簡単だと思った問題は得点率が上がり,難しいと思った問題は得点率が下がっており,客観的な点数と受験者の難易度評価は相関することがわかった。この結果から妥当な平均点を維持するための問題のレベルが割り出され,本試験の作問に生かされたという。また2回目のパイロット試験受験者の無答率を見たところ,終盤の問題の回答に空欄が多いことがわかった。この結果から問題数が多すぎたと判断,適切な問題数の割り出しの参考とされた。

 最後に一杉氏は,「これからも常に自己評価を行い,品質向上に努めていきたい」とし,「医英検の検定試験としての質の高さを広く知っていただき,医療分野でより多くの人に活用されることを望んでいる」,と語って発表を締めくくった。

高難度の2級試験は,筆記問題とテーマ自由の口頭発表で構成

2級パイロット試験について解説する伊藤氏

2級パイロット試験について解説する伊藤氏

 去る8月26日に,これまでの医英検3級,4級に加え,2級試験が初めて実施された。受験資格が認められているのは医英検3級取得者のみで,レベルは「英語での論文執筆・学会発表・討論,医学英語教育が行えるレベル」となっており,かなり上級だ。この2級試験の構成・内容は,本試験実施に先立って行われた2回のパイロット試験で検証された。伊藤氏からは,そのパイロット試験の具体的な内容が発表された。

 2級の試験構成は80分間の筆記試験(2問),10分間のプレゼンテーションと15分間の質疑応答だ。発表によると,パイロット試験の筆記試験では,Conclusionsだけが抜けている英文アブストラクトを問題文(2問)とし,150ワード以内で適切なConclusionsを英語で書くというもの。プレゼンテーション試験は,テーマは自由。事前に学会事務局に提出したスライド等の資料を使いながら試験官を聴衆に見立てて実際に口演を行い,続いて試験官との質疑応答を行うという実践さながらの試験だった。

 採点は,ネイティブスピーカーおよび医師を含む複数の試験官によって行われた。
一方,最上級となる医英検1級は,「英語での研究論文の指導,国際学会・会議での座長・議事進行ができるレベルで,これらにおける倫理的指導能力を含む」と規定されており,極めて難易度が高い。その開始時期について伊藤氏は,「2級試験を何度か実施したうえで具体的な検討に入りたい」との展望を示した。

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NZ研修の内容を紹介する岩田氏

NZ研修の内容を紹介する岩田氏

 一般演題は2日間で計19題の報告があり,いずれも活発な討議が行われ,参加者の関心の高さがうかがえた。ここでは,その中から岩田淳氏(島根大学医学部医療社会文化学講座教授)による「島根大学医学部における『ニュージーランド海外医学・看護研修』の実践報告」を紹介する。島根大学はもともと学生の海外派遣に積極的だったが,医学部には高学年向けの海外研修しかなかった。そこに岩田氏が低学年向けの海外研修を立案し,2009年度以降これまで3回の研修が実施され,好評だったという。今回の報告では,直近で行われた今年3月の研修内容が報告された。

ニュージーランドでの研修:午前は英語を学び,午後は医療施設の見学へ

 研修先は,2009年度から変わらずニュージーランドのWaikato Institute of Technology(Wintec)。ニュージーランドは日本との時差が少なく,治安もいい。さらに教育システムが日本と似ていることが,研修先に選ばれた理由だ。またWintecには,研修の企画段階でリストアップされたニュージーランドやオーストラリアの大学の中でも、施設見学ができることや学生との交流ができることなど,岩田氏の要望に応えてくれるという柔軟さがあった。

 参加者は,医学科生14名,看護学科生6名の計20名。医学科生の参加は昨年が初めて。参加者は出発までの約4カ月の間に,ネイティブスピーカーの教員による英語の研修を受けた。

 滞在期間は2週間で,1日のスケジュールは,午前中に英語の授業,午後に医療施設見学や現地の学生との交流を行う,というものだ。英語の授業は現地教員が担当し,一般英語の他に,午後に訪問する医療施設で使われそうな専門英語を取り入れるなど,学生に配慮された授業内容だった。さらに学生が自ら英語で話す機会も多く設けられ,現地の教職員や学生に向けて日本を紹介するプレゼンテーション,現地の学生との交流,送別会での英語スピーチなど,学生が英語を使わざるを得ないような環境が整えられた。見学で訪れた医療施設は,地元の基幹病院に始まり,バースセンター(日本の助産院に当たる),先住民であるマオリのためのヘルスセンター,未就学児と母親のケアをするニュージーランド独自の施設・プランケット看護施設など,多岐にわたっている。

 研修を終えた学生のアンケートによると,評価は上々だった。一方で,出発前の英語の研修が足りないという意見,リーディング力・ライティング力の向上にやや不満がある,という意見も出ている。岩田氏は,「これらの問題については,事前研修や事後研修でさらにフォローしていきたい」としている。
(神尾 希)

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