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小児期のがん胸部放射線治療は,照射線量が少なくてもその後の乳がんリスクを増大

New Insights into the Risk of Breast Cancer in Childhood Cancer Survivors Treated with Chest Radiation: A Report from the Childhood Cancer Survivor Study and the Women’s Environmental Cancer and Radiation Epidemiology Study

小児期のがん胸部放射線治療は,照射線量が少なくてもその後の乳がんリスクを増大

 小児期にがんの胸部放射線治療を受けたことのある女性は,照射線量の多寡に関わらず,乳がんに罹るリスクが大きく上昇することが報告された。米国・小児がんグループでは,20グレイ(Gy)以上の放射線治療を受けた患者では,25歳時または放射線治療後8年目から,マンモグラフィとMRIによる年1回のスクリーニング検査を推奨しているが, 20Gy未満の少ない照射線量であっても,乳がん罹患率は通常の20倍以上になることが分かった。米国・メモリアルスローンケタリングがんセンターのChaya S. Moskowitz氏らが行った26年に及ぶ追跡調査の結果である。

 調査対象は,21歳までにがんと診断されて胸部放射線治療を受け,5年以上生存した女性患者1,286人。これらの患者の乳がんへの罹患を追跡し,一般的な罹患率(米国のがん登録システムSEERのデータ)や乳がん患者を対象としたWECARE試験のデータと比較した。

 追跡中に乳がんに罹患したのは176人で,SEERを基準に算出した罹患数と比べ20.8倍となった。これらの患者が小児がんと診断された年齢中央値は16歳,乳がんと診断された年齢中央値は38歳で,一般的な罹患年齢より若かった。小児がん診断から乳がん診断までの期間中央値は23年だった。また,乳がんに罹患した患者のうち84%をホジキンリンパ腫が占めていた。

 一方,50歳時の乳がん累積罹患率は全体で24%だったが,ホジキンリンパ腫の患者では30%となり,乳がんリスクの高いBRCA1遺伝子変異保有者の31%(WECARE試験のデータ)と同程度だった。また,照射線量別にSEERデータと比較すると,10~19Gyであっても20Gy以上と同様20倍以上になり,照射部位別では,照射線量が低かったにも関わらず全肺照射が最も高かった(38.3倍)。

 Moskowitz氏は,“The goal is to maximize the cure rates for childhood cancer while minimizing future health problems. Our results suggest that young women treated with lower doses of radiation who are not currently being screened also have an elevated risk of breast cancer and might benefit from a similar screening strategy” と,より多くの患者に対するスクリーニング検査の重要性を訴えた。(中川ゆり子)

■試験の概要

対象   21歳までに診断された小児がんに対して胸部放射線治療を受け,5年以上生存した女性患者1,286人
※ホジキンリンパ腫53%,ウィルムス腫瘍11%,白血病9%,非ホジキンリンパ腫8%,神経芽細胞腫7%など
     
方法   ・対象患者の累積罹患率を,WECARE試験(Women’s Environmental Cancer and Radiation Epidemiology Study)でBRCA1/2遺伝子変異があった患者と比較
・対象患者の罹患数をSEER(Surveillance, Epidemiology and End Results)のデータを基準とした期待罹患数と比較(標準化罹患比)
※SEERは米国国立がん研究所による大規模ながん登録システムで,そのデータを基に一般的米国人のがん疫学情報などが提供されている
     
追跡期間   26年(中央値)
     
結果

 

乳がん 標準化罹患比(95%信頼区間)

罹患数 期待罹患数

胸部照射(n=1,286) 176 8.7 20.8(17.7~23.5)

癌腫      

ホジキンリンパ腫(n=682) 147 6.7 21.9(18.7~25.8)
その他の小児がん(n=604) 29 2.0 14.6(10.2~21.0)

照射線量      

10~19Gy(n=194) 12 0.5 22.7(12.9~40.0)
20Gy以上(n=944) 161 7.7 21.0(18.0~24.5)

照射野      

マントル照射* (n=594) 138 5.8 23.7(20.1~28.0)
全肺照射(n=124) 15 0.4 38.3(23.1~63.4)
その他§(n=283) 18 1.7 10.8(6.8~17.1)

マントル照射:頸部,腋窩,肺門,縦隔リンパ節への照射。ホジキンリンパ腫でよく行われる。
照射線量中央値(範囲):*39.6Gy(7.5~54.5),14.2Gy(2.0~20.0),§30.0Gy(3.0~65.0)
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