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薬剤溶出ステントで懸念される長期予後悪化の危険性が大規模調査により否定される
Long-term safety of drug-eluting stents: 2-year outcomes of the Massachusetts Stent Trial (MASS Stent試験)

現在,心筋梗塞などの虚血性心疾患に対し,冠動脈狭窄部に薬剤溶出ステント(DES)を留置して血行を再開させる治療法が,世界中で広く行われている。DESはその一世代前のステント〔薬剤を塗布していないベアメタルステント(BMS)〕よりも再狭窄率を低下させることから,臨床での使用頻度は高まっている。ところが最近,DESを留置した患者の遠隔期に,重篤な疾患であるステント血栓症がBMSより高い確率で発症する危険性が指摘され,大規模な後ろ向き試験からはBMSと比べ生命予後が悪化することが示されるに至った(Lagerqvistら)。これにより,DESの優位性や安全性に疑問符を投げかける医師も多くなっている。そのような中,本学会のSpecial Sessionで,DESとBMSの長期予後を比較検討した2万人規模の後ろ向き試験“MASS Stent”の結果が,ハーバード大学ブリンガム・アンド・ウイメンズ病院のLaura Mauri氏より発表され,注目を集めた。
同氏らは,DESがBMSと比較して死亡率,心筋梗塞発症率,血行再建術施行率を上昇させるかどうかを評価するため,2003年4月~04年9月の間にマサチューセッツ州の医療機関でDESまたはBMSによる治療を受けた州内在住の患者18,917例のデータを元に,後ろ向き解析を行った。対象患者のうちDESのみは11,516例(DES群),BMSのみは6,210例(BMS群)だった。患者の背景因子を調整したうえでステント留置から2年後の予後を比較すると,DES群はBMS群より死亡率と血行再建術施行率が有意に低下していた。心筋梗塞発症率には有意差がみられなかったものの,低下傾向が認められた。これらの結果より,DESはBMSより危険性が高いとは言えず,むしろ患者の長期予後に対してはBMSよりも優位性があることが示唆された。
Mauri氏は,同試験を行う前の心中を, “What we were less certain about before this study was the long-term safety of drug-eluting stents compared to bare metal” と述べ,DESの長期的な安全性に確信がなかったことを明かした。さらに,それを否定する結果となったことを受けて,"It is a very large study with long-term follow up, it reflects contemporary U.S. practice - where most patients receive drug-eluting stents" と,この研究がDES大国となった米国の冠動脈疾患治療の現場を反映していることに触れ,同研究の重要性を強調した。
■試験の概要
<対象> | マサチューセッツ州でDESまたはBMS留置治療を受けた18,917例(うち両方の治療を受けた1,191例を除外) | ||||||||||
<方法> | 後ろ向き観察研究
患者の背景因子を考慮し,傾向スコアマッチングによって両群を調整して比較した |
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<結果> | 主要エンドポイント:ステント留置2年後 (%の数値はいずれも,DES群 vs BMS群)
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