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新規抗血小板薬ticagrelorの治療効果は患者の遺伝子多型に影響されない
Impact of CYP2C19 and ABCB1 single nucleotide polymorphisms (SNPs) on outcomes with ticagrelor and clopidogrel in acute coronary syndrome(PLATO遺伝子サブスタディ)
急性冠症候群患者を対象とした大規模臨床試験PLATOの遺伝子サブスタディの結果から,新規抗血小板薬ticagrelorの予後改善効果は患者の遺伝子多型にほとんど影響されないことが明らかになった。また,クロピドグレルはその影響を受けるものの,既報の試験結果ほど大きいものではなかった。スウェーデン・ウプサラ臨床研究センターのLars Wallentin氏が発表した。
PLATO試験からは,既に新規抗血小板薬ticagrelorが,現在汎用されている同様の薬剤・クロピドグレルよりも心血管イベント抑制効果で優ることが報告されている。一方,クロピドグレルは,2つの遺伝子・CYP2C19とABCB1の多型を有する患者の場合,治療効果が減弱し,予後改善効果に影響する可能性が指摘されている。そこで今回のサブスタディでは,これら遺伝子多型の有無により,PLATO試験で得られたticagrelorとクロピドグレルの心血管イベント(心血管死+心筋梗塞+脳卒中)抑制効果がどのような影響を受けるかが検討された。対象となったのは,PLATO試験の対象患者18,624名のうち,遺伝子サブスタディのために血液を提供していた10,285名。
試験の結果,ticagrelorによる心血管イベント抑制効果は,CYP2C19遺伝子多型の有無に影響されず,治療開始から1年後までの追跡期間中,同等であった。一方,クロピドグレルでは,同遺伝子多型を有する群が有さない群と比べて心血管イベント発生リスクが高くなり,特に治療開始から30日間はその差がより顕著だった(p=0.0028)。しかし,その後は多型の有無による差はほとんどみられなかった。
ABCB1に関しては,高・中・低発現多型の3種類が比較された。ticagrelorは特に影響を受けなかったが,クロピドグレルでは高発現多型の群でイベント発生リスクがわずかに高く,ticagrelorとの差はより大きかった。
最後にWallentin氏は「今回明らかになったクロピドグレルの治療効果に対する遺伝子多型の影響は,既報の規模の小さい試験で示された結果ほど大きいものではなかった」と述べ,特に注目されることとして,その影響がクロピドグレル治療開始直後の短期間に限られたことを挙げた。また,ticagrelorは遺伝子多型の影響を受けなかったことから,「ticagrelorの投与開始前に,治療への反応性を調べる遺伝子検査を行う必要はないのではないか」との見解を示した。(Rick McGuire)
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