去る7月3~4日の2日間,第13回日本医学英語教育学会学術集会が,東京の聖路加看護大学にて開催された(会長:聖路加看護大学教授・菱田治子氏)。
 本学会の会員は大学医学部や看護学部などで医学英語教育に携わる人々が中心。2008年には世界的にも珍しい医学英語に特化した検定試験「日本医学英語検定試験(医英検)」をスタートさせるなど,わが国の医学英語教育を牽引する学会となっている。

ここでは,本学術集会で特に注目された講演を中心に,その概要を簡略に紹介する。

特別講演・日野原重明氏:ユーモア溢れる講演で聴衆を魅了

 特別講演では,会場となった聖路加看護大学と聖路加国際病院の理事長を務める日野原重明氏が「日本語の医学用語と英語の医学用語の違い」と題する講演を行った。この中で同氏は,日本語の医学用語は英語と比べて難解であり,患者が理解できない難しい言葉が医療現場で未だに使われていることに警鐘を鳴らし,誰にでも分かる言葉で,より患者本位の医療を行うことの重要性を説いた。

第6回植村研一賞は一杉氏が受賞

 毎年,前年の学術集会の一般演題の中から優れた発表に贈られる植村研一賞は,今年,第6回目を迎えた。受賞したのは,昨年「医学英語検定試験における主観的評価の重要性―パイロット試験アンケート調査の解析」を発表した一杉正仁氏(獨協医科大学准教授)。

注)植村研一氏(国保松戸市立病院・松戸市立福祉医療センター東松戸病院総長)は本学会の初代理事長で現名誉理事長。

 

菱田治子氏   日野原先生   受賞
学会長の菱田治子 氏   舞台中央で語りかけるように講演を行う日野原重明氏。今年の10月には99歳になられるという同氏のユーモア溢れる講演に聴衆は釘付けだった。   授与式での一杉正仁氏(左)と
植村研一氏(右)

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 招待講演には,NHKの英会話番組でお馴染みの松本茂氏(立教大学経営学部国際経営学科教授)が登場。英語に限らず広い意味でのコミュニケーション教育学を専門とし,医学部でもクリニカル・コミュニケーションを教えた経験のある同氏は,「日本の英語教育の課題と方策」と題する講演を行い,英語教育を基盤にした大学教育の国際化へのヒントを語った。

国内志向の強い若い世代の目をどう国外に向けさせるか

菱田治子氏

国際競争力確保に向けた方策を提言する
松本茂氏

 国際化は今や重要な国家戦略の一つであり,かつ民間企業の重要な世界戦略にもなっている。しかし,これに逆行して若者の間では国内志向が強まっており,20代の出国率は1997年から続落傾向で,「海外で働きたくない率」は増加している。松本氏が教鞭をとる立教大学でも学生の国内志向は深刻な問題で,交換留学の希望者が定員割れする場合もあるという。

 しかし,国際化の流れは,今後,中学校や高等学校の英語教育の現場に,これまでの文法や訳読重視からコミュニケーション活動を重視するといった,大きな変化をもたらすことになる。それに伴って大学も変わる必要がある。近年,日本の大学の国際的評価は低下しており,その立て直しのためには,立教大学の国際経営学科が導入しているように,専門科目の講義を英語で行うといった大きな変革が必須となる。そういった努力で国際認証を得て,海外の一流大学との交換留学を可能にし,国際競争力を確保するという,将来に向けた対策を取る必要がある。

 一方,医学部では,英語は他の履修科目と比べて相対的にその必要性が低いのが現状だ。そのような中で英語によるコミュニケーション能力を高めるには,授業や社会活動のなかに英語が必要とされる環境を創出することが不可欠だと提言。松本氏は,その具体案として,交換留学,海外研修,海外の医学部教員の招聘,一部の専門教育科目の英語化など,さまざまな方向から学生に刺激を与え,英語の必要性を実感させることが第一歩だと述べ,講演を締めくくった。

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 一般演題のセッションでは,医学英語教育,医学英語検定試験,教材開発,論文検討など,多岐にわたるテーマが討議された。ここでは,その中から,参加者の関心の高かった「English Camp for Medical Students」[演者:愛知医科大学・山森孝彦氏(准教授)/久留友紀子氏(准教授)]の概要を紹介する。

「近い,短い,安い」を実現した医学生のための夏の医療英語キャンプ

菱田治子氏

実際のキャンプの写真を示しながら
発表する山森孝彦氏

 実践的な医療英語を学びたいというニーズはあるが,英語圏への短期留学にはまとまった時間と費用が必要であり,さらに海外で医療英語を学べる医学生向けプログラムを探すのは極めて難しい。そこで山森氏・久留氏らは,昨年の夏,旅行社が販売する国内で行う高校生用英語キャンプを,医学生向けにカスタマイズして利用することを考案。同大学から車でわずか90分のところにある高原で,2泊3日,1人39,000円という「近い,短い,安い」医療英語キャンプを成功させた。

 その内容は,既存のキャンププログラムの中の英語学習時間を,山森氏らが考えた医療英語に特化した学習内容に差し替えるだけというシンプルなもの。キャンプスタッフや米国人大学生カウンセラーは既存プログラムの人たちをそのまま活用。これにより,ネイティブスピーカーの手配,旅行に関わる各種手配などは一切行わなくてすむ,いわば省エネ医療英語キャンプが可能になった。

 キャンプ中の医療英語の学習時間は3日間で合計14時間。その主な内容は,1つは,ネイティブスピーカーのキャンプカウンセラーが模擬患者となり,医学生が英語で問診する英語医療面接の実習。もう1つは,カルタ取りの手法を使って医療英語のリスニング力,語彙力向上を目指すゲーム感覚の学習プログラムだ。そのパート1では,ネイティブスピーカーが医療英単語の定義を読み上げ,学生が当てはまる単語をカルタ取りの要領で選び取る。そしてパート2では,各チームリーダーが,カードに書かれた単語の定義を何も見ずに英語で説明し,チームメイトに当てさせるというもの。

 参加した学生たちの評判は上々だったとのことで,山森氏らは,容易に実施できて効果の高い医学生向け医療英語キャンプとして,今後,さらに普及していきたい考えだ。

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