2013年5月まで配信していたメールマガジン『気楽に1分~脳に染み込む医学論文・頻出単語!』の全バックナンバーを公開します。
主要医学ジャーナル4誌(N Engl J Med,JAMA,BMJ,Lancet)に掲載された100論文の全単語から,英文の“核”とも言える動詞だけを集めて使用頻度を解析。このうちランキング上位の動詞を,ランダムに取り上げています。
バイリンガルの富田氏が語る「単語の持っているイメージ,ネイティブが感じるニュアンス」は,まさに“目からウロコ”の感涙もの!
1つの動詞を3つの違った角度から学習できるので,その使い方が徐々に脳に染み込みます。
月~金曜にわたり,毎日1単語ずつ,全100単語分のバックナンバーを順次公開していきます。お楽しみに!!
No. 100
reduce
意味:減少させる,下げる,縮小させる,縮小する
単語のイメージ:何かの量を少なくする,小さくする
例文
(1)Some of the ARBs have been reported to reduce albuminuria in patients with diabetic nephropathies.
(2)Appropriate infection control measures should be taken to reduce nosocomial transmission.
単語チェック
- ARBs アンジオテンシンII受容体拮抗薬(angiotensin II receptor blockers)の略。日本での略称は ARB
- albuminuria アルブミン尿,タンパク尿
- diabetic nephropathies 糖尿病性腎症
- infection control measures 感染予防対策
- nosocomial transmission 院内感染
対訳
(1)いくつかのARBは,糖尿病性腎症患者のアルブミン尿を低下させることが報告されている。
(2)院内感染を減少させるために,適切な感染予防対策を講じるべきである。
ミニ解説
(2)の「院内感染を減少させる」は,「院内感染の発生件数(量)を少なくする」という考え方です。また「縮小する」という意味では,以下の例文のように腫瘍の縮小などでよく用いられます。
《例文》
Treatment ABC is proven effective to reduce this particular type of tumor.
(このタイプのがんには,治療法ABCが腫瘍の縮小に有効であることが証明されている)
一方,reduce tumor growth という場合は「がんが大きくなるのを遅くする」,reduce tumor toxicity は「がんの毒性を減少させる」という意味になってきます。
「reduce 縮小する」に対する反意語は「enlarge 拡大する」で,「reduce 下げる,減らす」の反意語は「increase 上げる,増やす」などが当てはまります。このような反意語からも,reduce は「量」の話の際に使われることが見えてきます。
一般的には,「権限が奪われる」というときも,reduce one's authority という言い回しをすることがあります。これは,これまで10あった「権限の量」を5まで縮小させる,というニュアンスです。全ての権限がはく奪されるのであれば,reduce ではなく strip(はがす)になります(he has been stripped of all his power)。このように,reduce は人の権利などにも使えますが,「上から下へと二次元で減っていく」というイメージの decrease は使えません。
問題
(1)生活習慣を変えることは,心血管疾患リスクの低下に有効である。
(2)経口薬Aの開発は肺動脈圧の低下に貢献し,QOL を改善した。
ヒント
※(1)の「~を変えること」は「~の変更」と考えて。
※(1)の「~の低下」は ing を使って表現してみましょう。
※(2)の「~の低下」は「低下した~」と考えて。
- 生活習慣 lifestyle
- 心血管疾患 cardiovascular disease
- 経口薬 oral drug
- 肺動脈圧 pulmonary artery pressure
解答例
(1)Lifestyle change is effective in reducing the risk of cardiovascular disease.
(2)Development of oral drug A contributed to reduced pulmonary artery pressure and improved QOL.
ミニ解説
(1)の lifestyle change はよく耳にする言葉です。ここの change を modify にしてもよさそうですが,あまり適切とは言えません。modify は「ちょっと変える」という意味ですから,心血管疾患のリスク低下のためには「ちょっと生活を変える程度ではなく,しっかり変えてほしい」という医療者側の強い意志が感じられなくなってしまうからです。医師は change を使って患者に生活習慣を変えさせようとするのに,患者の本音が「少しで勘弁してください」であった場合は,こんな会話になるかもしれません。
《例文》
You have to change your lifestyle, okay?
[生活習慣を変えましょうね(タバコはやめましょう)]
Yes, doctor. I'll cut down to 10 cigarettes a day.
(はい。タバコは1日10本に減らすようにします)
このときの患者の心理は change ではなく modify です。
例文
(Q)Are there any promising compounds for future anticancer drugs?
(A)I think compound A might be, as it has exhibited anticancer properties in vitro by reducing the activity of topoisomerase I.
単語チェック
- promising 有望な
- compounds 化合物
- anticancer drugs 抗がん剤
- exhibited 示した
- properties 作用,特性
- in vitro インビトロの,試験管内で
- topoisomerase I トポイソメラーゼ I(酵素の一種で,DNA のらせん構造を変える作用がある)
対訳
(Q)将来の抗がん剤開発に有望な物質はありますか。
(A)化合物Aが有望かもしれません。この物質は,インビトロではトポイソメラーゼ I の活性を下げることで抗がん作用を示していますから。
ミニ解説
英訳,和訳をする際,日本語と英語で一語一句パーツが揃っている必要はない,という話は折に触れてしてきましたが,今回の例文にもそれが当てはまります。(Q)は,英語では for future anticancer drug で済まされることが,日本語では「開発」という一言が入らないと,何となくしっくりきません。これは,英語の for の中に,future anticancer drugs を「どうする(開発する)“ため”」という意味がすでに含まれているからです。ただ,会話はあくまで交わされる両者の間に何らかの前提があって成立するものですから,細かいことまで言うか言わないかはそのときの雰囲気で決まってきます。したがって,ここの英語も,~ for future anticancer drug development? というように,development を付けて聞いても,もちろん構いません。
(A)の as は,because でも since でも,好きな単語が使えます。どれを使っても,ニュアンスはほとんど同じです。