2013年5月まで配信していたメールマガジン『気楽に1分~脳に染み込む医学論文・頻出単語!』の全バックナンバーを公開します。
主要医学ジャーナル4誌(N Engl J Med,JAMA,BMJ,Lancet)に掲載された100論文の全単語から,英文の“核”とも言える動詞だけを集めて使用頻度を解析。このうちランキング上位の動詞を,ランダムに取り上げています。
バイリンガルの富田氏が語る「単語の持っているイメージ,ネイティブが感じるニュアンス」は,まさに“目からウロコ”の感涙もの!
1つの動詞を3つの違った角度から学習できるので,その使い方が徐々に脳に染み込みます。
月~金曜にわたり,毎日1単語ずつ,全100単語分のバックナンバーを順次公開していきます。お楽しみに!!
No. 87
obtain
意味:得る,獲得する
単語のイメージ:手に入れる
例文
(1)Endoscopic examination failed to obtain pathological diagnosis.
(2)Similar results were obtained for drug A and drug B in terms of lowering blood pressure.
単語チェック
- Endoscopic examination 内視鏡検査
- pathological diagnosis 病理診断
- in terms of ~に関して
- lower 低下させる
対訳
(1)内視鏡検査では病理診断ができなかった。
(2)降圧に関して,A薬とB薬の結果は同等であった。
ミニ解説
obtain のイメージは,「手に入れる」です。get の上のレベルの(フォーマル度の高い)単語と覚えておきましょう。
(1)の対訳では,obtain に対応する訳はありませんが,英語と日本語では必要とされるパーツが必ずしも一致しないことはよくあることです。「病理診断ができなかった」を英語に直訳すると (We) were unable to diagnose pathologically. となりますが,より英語らしく,語彙レベルを専門家レベルに引き上げるなら,(1)の failed to obtain を使った言い方が適切です。
どのようにして語彙レベルを高くしたらよいのかという問題については,「語学はモノマネ」をモットーに,自分の領域の論文をたくさん読み,頻繁に出てくる言い回しを丸覚えするのがベストでしょう。
少し論理的なアドバイスをするなら,英語と日本語の一番の違いは,1を言って1を知る(英語)言葉と,1を言って10を知る(日本語)言葉,と言えるかもしれません。例えば,英語にする前に,(1)の「病理診断ができなかった」の「できなかった」は,どういうタイプの「できない」なのかをまず考える,というステップを持つことです。「病理診断を下すに足る “情報” が内視鏡検査で “得られなかった”」と言いたいのだと分析できれば,(1)の英文に行き着きます。
では,これはどうでしょう。日本語では同じく「内視鏡検査では病理診断ができなかった」と訳せる英文です。
《例文》
We could not perform endoscopic exam for pathological diagnosis.
この英文の「できなかった」は,「(病理診断をするために)内視鏡検査を行うことができなかった」ですから,言いたいことが(1)とは全く違うことが分かります。日本語では,文脈の中では言うまでもないような前提が,英語ではひとつひとつ言わなければならないという一例です。
問題
(1)組み入れ基準に合致した参加患者から,インフォームド・コンセントを得た。
(2)手術後の残存腫瘍に関する情報は,病理検査から得られる。
ヒント
※(1)は「インフォームド・コンセント」を主語にしてみましょう。
※(2)の「~から得られる」の「~から」に当たる前置詞は?
- 組み入れ基準 inclusion criteria
- 合致する meet
- 残存腫瘍 residual tumor
- 病理検査 pathological examination
解答例
(1)Informed consent was obtained from participating patients who met the inclusion criteria.
(2)Information on residual tumor after surgery is obtained with pathological examination.
ミニ解説
(2)の「~から得られる」の前置詞は from ではなく with です。「その情報がどのようなツールを用いて得られるか」という意味では with が使われます。「どのように~するか」と言う場合も,同じく with が使われます。
《例文》
How are we going to open this box?
(この箱どうやってあけるの?)
With a hammer.
(ハンマーでさ)
ここの with は「ハンマーで」の「で」に当たります。この「~で」は by になるのでは? という疑問もわきそうですが,by は with よりも間接的な「で」ですから,ここは with が正解です。
結婚式の定番フレーズには,by が使われていますね。
《例文》
By the power vested in me, I pronounce you man and wife.
[私(神父)に与えられた権限をもって,ここに2人を夫とその妻と認めます]
「権限をもって」の「もって」が by に当たります。by の間接的なイメージがよくわかるのではないでしょうか。
例文
(Q)How did you obtain the survey results without missing data?
(A)We made periodical phone calls to avoid losing patients during follow-up.
単語チェック
- survey results 調査結果
- periodical 定期的な
対訳
(Q)どのようにして調査結果をデータ漏れのないものにすることができたのですか。
(A)患者の脱落を防ぐために,追跡期間中,定期的に電話をしました。
ミニ解説
今回も,(Q)の和訳では obtain の「得る」が消えています。あえて訳すなら「得られた調査結果を~」となるところですが,日本語ではそこまで言う必要はないですね。
「データ漏れ」は missing data です。気を付けたいのは,without THE missing data というように the が入ると,「(1つ1つの調査項目について)漏れているデータなしで」の意味に変わってしまうことです。これを混乱しないようにするには,missing の代わりに losing を使うとよいかもしれません。同じ意味ですが,losing の方が「失くす」ことがよりはっきりします。とはいえ,実際には missing もこのような場面でよく使われるので,注意しておく必要があります。
(A)の avoid は prevent に変えても同じ意味になります。ただ,avoid のほうがより口語的です。また,prevent は「そうならないよう準備する(予防)」,avoid は「そうならないようにする(避ける)」の意味合いが強いので,結果は同じでも,話す人の心持ちが少し違ってきます。