2013年5月まで配信していたメールマガジン『気楽に1分~脳に染み込む医学論文・頻出単語!』の全バックナンバーを公開します。
主要医学ジャーナル4誌(N Engl J Med,JAMA,BMJ,Lancet)に掲載された100論文の全単語から,英文の“核”とも言える動詞だけを集めて使用頻度を解析。このうちランキング上位の動詞を,ランダムに取り上げています。
バイリンガルの富田氏が語る「単語の持っているイメージ,ネイティブが感じるニュアンス」は,まさに“目からウロコ”の感涙もの!
1つの動詞を3つの違った角度から学習できるので,その使い方が徐々に脳に染み込みます。
月~金曜にわたり,毎日1単語ずつ,全100単語分のバックナンバーを順次公開していきます。お楽しみに!!
No. 78
approve
意味:承認する,認める,賛成する
単語のイメージ:OK を出す,ゴーサインを出す
例文
(1)In 2009, a tyrosine kinase inhibitor nilotinib was approved to treat chronic or accelerated phase imatinib-resistant chronic myelogenous leukemia.
(2)It takes much longer to approve a new drug in Japan compared to the US or Europe.
単語チェック
- tyrosine kinase inhibitor チロシンキナーゼ阻害剤(分子標的薬の一種)
- nilotinib ニロチニブ
- chronic(phase) 慢性(期)
- accelerated phase 移行期
- imatinib-resistant イマチニブ抵抗性の(イマチニブはチロシンキナーゼ阻害薬の一種で,Bcr-Abl 陽性細胞を標的とする)
- chronic myelogenous leukemia 慢性骨髄性白血病(CML)
対訳
(1)チロシンキナーゼ阻害剤ニロチニブは,2009年,慢性期または移行期のイマチニブ抵抗性慢性骨髄性白血病に対する治療薬として承認された。
(2)日本ではアメリカやヨーロッパと比べ,新薬の承認にはるかに時間がかかる。
ミニ解説
approve のイメージは「OK を出す,ゴーサインを出す」です。つまり,「相手に何かの行動を取らせることを認める」という能動的な意思が感じられる単語です。admit や accept にも「認める」という意味がありますが,admit は「自分が何かの行動をしたことを認める」,acceptは「他の何かが取った行動を認める」ことを表し,いずれも「受け入れる」という受動的な意思が含まれます。
《例文》
The guidelines do not approve use of this drug for these patients -- but I admit that it is a drug that may be helpful in a small number of patients.
(ガイドラインではこのタイプの患者にこの薬を使うことは認められていないが,そのなかの少数の患者に有効である可能性があることは認めている)
I would never use that drug myself but I accept your decision to use it.
(個人的には絶対に使いたくない薬だが,あなたの意思を尊重しよう = あなたが使うと決めたからには,私が何を言ってもあなたは使うという事実を受け入れよう)
admit も accept も,approve のように積極的あるいは肯定的に「認める」というのではなく,「自覚している」や「甘受している」に近いことが分かりますね。
問題
(1)シタグリプチンは糖尿病治療薬として承認された日本初の DPP-4阻害薬である。
(2)そのプロスペクティブ試験は治験審査委員会によって承認された。
ヒント
- シタグリプチン sitagliptin
- 糖尿病 diabetes
- DPP-4阻害薬 DPP-4 inhibitor(腸管ホルモンのひとつであるインクレチンを不活化する経口糖尿病治療薬。DPP は dipeptidyl peptidase-4 の略)
- プロスペクティブ試験(前向き試験) prospective study
- 治験審査委員会 institutional review board(IRB)
解答例
(1)Sitagliptin is the first DPP-4 inhibitor approved for the treatment of diabetes in Japan.
(2)The prospective study was approved by the institutional review board.
ミニ解説
「X を承認する」は,approve X という言い方が普通ですが,自動詞を使って approve of X ということもあります。意味に変わりはないですが,自動詞を使う方が文章が長くなるだけに,ややもったいぶった言い方になります。ただ,たとえば X 以外にも Y や Z など他にも承認を待っている薬がある場合,approved of X というと,X だけが承認されて Y や Z は承認されなかったことがすぐにわかってもらえます。では,以下はどうでしょうか。
《例文》
The parents didn't approve of the new treatment given their son against his will.
(両親は息子の意に反して施された新しい治療法を認めなかった)
これは The parents didn't approve the new treatment ~ でも意味は同じですが,これまでに違う治療を受けてきたという前提があった上で didn't approve of the new treatment と表現したのであれば,過去の治療法と違ってとりわけ今回の新しい治療法に賛成できなかったと捉えることができます。
例文
(Q)Do you expect that the molecular target drug will be approved soon in Japan?
(A)Yes. The results of this clinical trial support our strong expectation.
単語チェック
- molecular target drug 分子標的薬
- clinical trial 臨床試験
- expectation 期待
対訳
(Q)日本では間もなくその分子標的薬が承認されると見込んでいますか。
(A)はい。この臨床試験結果は我々の強い期待を支持するものだと思っています。
ミニ解説
新薬の承認が得られなかった場合,not approved を使うのと disapproved を使うのとでは意味に違いが生じます。
《例文》
Drug A was not approved by FDA.
Drug A was disapproved by FDA.
(薬剤 A は FDA の承認を得られなかった)
日本語に訳すといずれも同じ意味ですが,not approved の方が disapproved に比べて,今後まだ承認を得る希望が残されている感じがします。つまり,not approved の場合は,承認を得るために何かが足りなかったというニュアンスがあるのに対し,disapproved はもっと強い意味で承認が得られなかった,たとえば,毒性や副作用が強すぎるといった重大な問題があり,承認が下りなかったという含みを残します。
反意語(in-,dis-,anti- など)はこのように時としてきつい表現になることがあるので,気を付けなくてはなりません。反対の意味を表す接頭辞が付いた単語だけでなく,通常の対義語でも同様です。たとえば,患者に予後が悪いことを伝える場合,Your prognosis is bad. と言うと希望が持てなくなってしまいます。そのようなときは Your prognosis is not so good. と言うのが適切です。このように,場面によっては使う単語でインパクトの強さが大きく違ってくるので,特にデリケートな場面ではより慎重に言葉を選ぶ必要があります。