2013年5月まで配信していたメールマガジン『気楽に1分~脳に染み込む医学論文・頻出単語!』の全バックナンバーを公開します。
主要医学ジャーナル4誌(N Engl J Med,JAMA,BMJ,Lancet)に掲載された100論文の全単語から,英文の“核”とも言える動詞だけを集めて使用頻度を解析。このうちランキング上位の動詞を,ランダムに取り上げています。
バイリンガルの富田氏が語る「単語の持っているイメージ,ネイティブが感じるニュアンス」は,まさに“目からウロコ”の感涙もの!
1つの動詞を3つの違った角度から学習できるので,その使い方が徐々に脳に染み込みます。
月~金曜にわたり,毎日1単語ずつ,全100単語分のバックナンバーを順次公開していきます。お楽しみに!!
No. 75
reflect
意味:反映する,示す
単語のイメージ:鏡に映るように見える,あるいは浮き出る
例文
(1)Type I collagen N-telopeptide is a marker reflecting bone resorption.
(2)Drainage fluid amylase may reflect pancreatic leakage after pancreatoduodenectomy.
単語チェック
- Type I collagen N-telopeptide I型コラーゲン架橋 N-テロペプチド
- marker 指標
- bone resorption 骨吸収(破骨細胞が骨を融解し,カルシウムを血中に取り込むこと)
- drainage fluid amylase ドレーン排液アミラーゼ
- pancreatic leakage 膵液漏れ
- pancreatoduodenectomy 膵頭十二指腸切除
対訳
(1)I型コラーゲン架橋 N-テロペプチドは,骨吸収を反映する指標である。
(2)膵頭十二指腸切除後のドレーン排液アミラーゼは,膵液漏れを反映している可能性がある。
ミニ解説
数値や物質の量に対して使う場合は,鏡[=その数値や量の元となる薬剤や物質(agent)]に呼応するように浮き出る様子を表します。(1)のように,数値が検出されてグラフに表せるものには,reflect の代わりに indicate を使うこともできます。ただし,indicate は単に「示す」という意味ですが,reflect は「(何らかの現象が)浮き上がって見えてくる」という,より視覚的なイメージを表します。
ところで,(1)では「骨吸収」を表す単語として resorption が使われています。「吸収」を表す言葉には absorption もありますが,医学の分野では「分解や溶解あるいは融解などにより,エネルギーに変換するために吸収する」場合は absorption を,「溶解あるいは融解され,吸収された後に癒合する」場合は resorption を使います。したがって,骨量が少なくなる,歯が溶ける,などの現象を表すときには resorption を用いるのが一般的です。
問題
(1)その調査結果は,患者のニーズの高まりを反映している。
(2)この新しいエビデンスは,ガイドラインに反映されている。
ヒント
※(1)の「患者のニーズの高まり」は growing を使ってみましょう。
- 調査 survey
- エビデンス evidence
- ガイドライン guideline
解答例
(1)The survey results reflect growing patients' needs.
(2)This new evidence is reflected in the guidelines.
ミニ解説
次の文章は文法的に誤りはありませんが,動詞のニュアンスという点で少し問題があります。ひとつ修正するとしたら,どの部分だと思いますか。
《例文》
The P wave reflects atrial depolarization and the T wave represents ventricular repolarization.
(P波は心房の脱分極を反映し,T波は心室の再分極を表す)
通常,よい文章は同じ単語を繰り返さないことが原則なので,ここでは前半に reflect,後半に represent という2種類の動詞を使っています。ところが,reflect と represent ではニュアンスが異なるため,同じ wave という主語に対してこのような使い分けをすると,まるで何か特別な違いを示すために動詞を変えたと思われる可能性があります。represent は「ある事象と同等である,ある事象に成り代わる」というイメージの単語なので,身体で起こっている事象を波形の形で見せていることが伝わりますが,reflect にはそこまで深い意味はなく,ただ波形として反映していることを示しているにすぎません。
したがって,ここでは動詞を2種類にせず,以下のように represent で統一する方が好ましいということになります。
《例文》
The P wave represents atrial depolarization and the T wave represents ventricular repolarization.
因みに,同じ文章のなかでは動詞の「形」をそろえることも大事な鉄則です。1つの文章のなかで2つ以上の動詞を並列する場合,進行形を使うのであればすべて進行形に,現在形ならすべて現在形に統一するようにしましょう。
例文
(Q)Are circulating tumor cells useful prognostic factors in patients with metastatic breast cancer?
(A)Yes, CTCs reflect disease progression as well as treatment effect.
単語チェック
- circulating tumor cells 末梢循環腫瘍細胞(CTC)
- prognostic factors 予後因子
- metastatic breast cancer 転移性乳がん
- progression 進行,増悪
- treatment effect 治療効果
対訳
(Q)末梢循環腫瘍細胞は転移性乳がん患者の予後因子として役に立ちますか。
(A)はい。CTC は疾患の進行だけでなく,治療効果も反映します。
ミニ解説
「X だけでなく Y も,X と同様に Y も」と言いたいとき,(A)のように X as well as Y を使うこともあれば,not only X but also Y や,Y in addition to X,X and Y などさまざまな表現パターンを使うこともできます。
《例文》
a. Yes, CTCs reflect not only disease progression but also treatment effects.
b. Yes, CTCs reflect treatment effect in addition to disease progression.
このとき,特に気をつけなければいけないのは b. の文章での言葉の配置です。in addition to は「~に加えて,さらに」という意味なので,その前にある言葉(この場合は treatment effect)が,より伝えたい重要な内容ということになります。
また,気持ちの入り具合という点では,a. の not を用いた文章が最も感情がこもっているといえます。どんなに早口で流れるような会話の中でも,not は必ず耳に届く重要な言葉です。反対に,できるだけ感情を込めずに単調にこの文章を表したいときには,disease progression and treatment effect と言うのが無難です。どれを使うかはあくまで本人の気持ちと好み次第です。