2013年5月まで配信していたメールマガジン『気楽に1分~脳に染み込む医学論文・頻出単語!』の全バックナンバーを公開します。
主要医学ジャーナル4誌(N Engl J Med,JAMA,BMJ,Lancet)に掲載された100論文の全単語から,英文の“核”とも言える動詞だけを集めて使用頻度を解析。このうちランキング上位の動詞を,ランダムに取り上げています。
バイリンガルの富田氏が語る「単語の持っているイメージ,ネイティブが感じるニュアンス」は,まさに“目からウロコ”の感涙もの!
1つの動詞を3つの違った角度から学習できるので,その使い方が徐々に脳に染み込みます。
月~金曜にわたり,毎日1単語ずつ,全100単語分のバックナンバーを順次公開していきます。お楽しみに!!
No. 8
administer
意味:行う,投与する
単語のイメージ:外から入ってくる(入れる)人・もの・情報を管理してうまく動かす
例文
(1)The vaccine was administered into the left deltoid muscle using a 22-gauge needle.
(2)New guidelines for H1N1 influenza urge clinicians to administer antiviral medication as soon as possible.
単語チェック
- vaccine ワクチン
- deltoid muscle 三角筋
- 22-gauge needle 22ゲージの針
- guideline ガイドライン
- H1N1 influenza H1N1インフルエンザ
- urge (人に~するよう強く)促す,推奨する
- clinician 臨床医
- antiviral medication 抗ウイルス薬
対訳
(1)ワクチンは,22ゲージ針を使用して左三角筋から注入した。
(2)H1N1インフルエンザの新しいガイドラインでは,抗ウイルス薬をできるだけ早く投与するよう臨床医に推奨している。
ミニ解説
administer には,行政的に「処理する」,経営的に「管理する,運営する」,規則や儀式を「執行する」といった意味がありますが,医学論文では,administer M to a person[M(薬)を人に投与する]の形でよく出てきます。
(2)の例文中の medication は,元々は sheep や deer のように複数でも s が付かない不加算名詞でしたが,時代とともに変化し(間違い使用が市民権を得て),今は加算名詞・不加算名詞のどちらで使っても間違いではなくなっています。したがって(2)の例文で medications としても文法的には問題ありません。「薬物治療の場合は不加算名詞,薬物の種類を表すときは加算名詞」と説明している辞書もありますが,辞書と論文や実臨床での使われ方は必ずしも一致しないかもしれません。患者に2種類の薬を処方して,"Take this medication"(この薬を飲んでください)と言う医師も "Take these medications" と言う医師もいるようです。
問題
(1)4時間毎にA薬を静脈内注射で投与した。
(2)学生たちは無記名の自記式質問票に記入した。
ヒント
※(1)は受動態を使って(be administered~)。
※(2)の「記入した」は「書類のすべての項目を記入する」という意味がある complete を使って。
- ~時間毎に every ~ hours
- 静脈内に(静脈内注射で) intravenously
- 無記名の anonymous
- 自記式質問票 self-administered survey
解答例
(1)Drug A was administered intravenously every 4 hours.
(2)Students completed an anonymous, self-administered survey.
ミニ解説
administer は,薬を「投与する」だけでなく,治療やテストを「行う」と言いたい場合にも使われます。
《例文》
The most effective times to administer the questionnaire may be during homeroom or at lunch.
(アンケート調査を実施するのに最適な時間帯は,ホームルームか昼食時だろう)
(2)の自記式質問票は self-administered questionnaire という言い方も見かけますが,特に医療分野では questionnaire は通常本人(患者)によって記入される質問票なので,self-administered(自己記入式の)を付けると意味が重複してしまいます。一方,surveyは,本人が記入するものに限らず,調査員が回答を受けたり,回答を録音するといったさまざまな方法をひっくるめた「調査」なので,self-administered を付けることで,渡された紙に本人が記入する調査であることを明確にすることができます。
例文
(Q)What kind of agent did the placebo group receive?
(A)We administered physiologic saline intramuscularly.
単語チェック
- placebo プラセボ,偽薬
- physiologic saline 生理食塩水
- intramuscularly 筋肉内に(筋肉内注射で)
対訳
(Q)プラセボグループには何を投与されましたか。
(A)生理食塩水を筋肉内注射で投与しました。
ミニ解説
(Q)は下記の例文のように,より短く,ダイレクトな形で聞くこともできます。
《例文》
What was used for placebo?
(偽薬は何を使いましたか)
(A)の We を主語にした能動態は,学会などの質疑応答でよく使われる表現法です。下記の受動態は論文やプレゼンテーションで使われることが多く,よりフォーマルな印象があります。
《例文》
Physiologic saline was administered intramuscularly.
この英文中の was administered intramuscularly は,was intramuscularly administered と,副詞を前に置いた英文もよく見かけます。このように,ひと続きの was administered を副詞で分断した形にしてもいいのか否かという問題は,英語圏での文法上の大きな議論のひとつであり,決着はついていません。したがって,医学誌でも編集者がその問題に対して強い意見を持っていなければ,どちらのスタイルを選ぶかは著者に任されているのが現状です。(編集部・Rick McGuire)