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ER陽性の乳がん患者では,タモキシフェンの10年投与が5年投与に比べて再発と死亡のリスクを低減(aTTom試験)
aTTom: Long-Term Effects of Continuing Adjuvant Tamoxifen to 10 Years Versus Stopping at 5 Years in 6,953 Women with Early Breast Cancer
エストロゲン受容体(ER)陽性乳がんの術後補助療法に用いられるタモキシフェンは,5年間の投与でその後の再発と乳がん死の予防に効果があることが知られている。この投与期間を5年から10年に延長することで,乳がんの再発と乳がん死のリスクがさらに低減されることが分かった。6,953人の乳がん患者を対象にしたaTTom試験の結果を,英国・オックスフォード大学のRichard Gray氏が明らかにした。
対象患者は,1991年から2005年にかけて集められた乳がん患者で,術後にタモキシフェンを5年間投与された6,953人。うち40%の患者がER陽性で,残り60%ではER状況は不明であった。ただしER状況不明患者のうち75%は陽性と予測できるため,対象患者の85%はER陽性だと考えられる。これらの患者を,さらに5年間タモキシフェンを投与する群(10年投与群)と投与を5年で中止する群(5年投与群)に無作為に割り付けた。毎年のフォローアップで,再発や死亡などについて記録を行った。フォローアップは15年以上とした。
再発リスクは,全体では10年投与群が5年投与群に比べて15%低下した(p=0.003)。ただしこの差は投与からの年数に依存しており,10年投与群の再発率が5年投与群より低くなるのは,投与から7年目以降だった。乳がん死のリスクは,全体では有意差が出るには至らなかったが,乳がんによる死亡率でみるとタモキシフェン投与開始から10年目以降は10年投与群で25%低下しており(p=0.007),長期的に見れば10年投与にベネフィットがあることを示唆する結果となった。安全性では,10年投与群で2.9%,5年投与群で1.3%が子宮内膜がんを発症し(p<0.0001),それぞれ1.1%,0.6%が死亡した(p=0.02)。乳がん以外の死亡は両群にほとんど差はなかった。
Gray氏は発表の中で,本試験と同様のデザインで行われた大規模国際試験ATLASの結果にも触れ,“This study and its international counterpart ATLAS confirm that there is definitely a survival benefit from longer tamoxifen treatment and many doctors will likely recommend continuing tamoxifen for an extra five years” と語った。また氏は,本試験とATLASによってタモキシフェン長期投与のベネフィットは疑う余地のないものであることが証明された,と述べて発表を締めくくった。(神尾 希)
■試験の概要
対象
1991年~2005年の間に,浸潤性乳がんで術後にタモキシフェンを5年間投与された患者6,953人
・ER陽性:40%,ER状況不明:60%
※ER状況不明患者のうち75%はER陽性であると予測できるため,
対象患者全体の85%はER陽性と推定
方法
多施設共同無作為化比較試験
・10年投与群:3,468人
(5年間のタモキシフェン投与後さらに5年間継続し,合計で10年間の投与を受ける)
・5年投与群:3,485人
(タモキシフェン投与を5年の時点で中止)
※毎年のフォローアップで,服薬コンプライアンス,再発,死亡,入院について記録した。
追跡期間
15年以上
結果
<再発>
10年投与群 n/N(%) |
5年投与群 n/N(%) |
オッズ比 (95%信頼区間) |
p値* | |
タモキシフェン投与開始からの期間 | ||||
5~6年 | 168/3,468 (4.8) |
154/3,485 (4.4) |
1.10 (0.88~1.38) |
-- |
7~9年 | 197/3,113 (6.3) |
248/3,139 (7.9) |
0.79 (0.65~0.96) |
-- |
10~14年 | 179/2,513 (7.1) |
221/2,453 (9.0) |
0.78 (0.63~0.95) |
-- |
15年~ | 36/924 (3.9) |
49/843 (5.8) |
0.66 (0.43~1.02) |
-- |
全体 | 580/3,468 (16.7) |
672/3,485 (19.3) |
0.85 (0.76~0.95) |
|
*両側検定
<乳がん死>
10年投与群 n/N(%) |
5年投与群 n/N(%) |
オッズ比 (95%信頼区間) |
p値* | |
タモキシフェン投与開始からの期間 | ||||
5~6年 | 49/3,468 (1.4) |
42/3,485 (1.2) |
1.17 (0.78~1.78) |
-- |
7~9年 | 136/3,275 (4.2) |
138/3,293 (4.2) |
0.99 (0.78~1.26) |
-- |
10~14年 | 167/2,753 (6.1) |
207/2,748 (7.5) |
0.79 (0.64~0.98) |
-- |
15年~ | 52/1,066 (4.9) |
65/1,013 (6.4) |
0.75 (0.52~1.09) |
-- |
全体 | 404/3,468 (11.6) |
452/3,485 (13.0) |
0.88 (0.77~1.01) |
0.06 |
*両側検定
<安全性>
10年投与群 n(%) |
5年投与群 n(%) |
発生比 (95%信頼区間) |
p値 | |
子宮内膜がん発症 | 102 (2.9) |
45 (1.3) |
2.20 (1.31~2.34) |
<0.0001 |
子宮内膜がん死 | 37 (1.1) |
20 (0.6) |
1.83 (1.09~3.09) |
0.02 |