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CangrelorがPCI施行に合併する虚血性イベントをクロピドグレルより有意に抑制(CHAMPION PHOENIX試験)
A Clinical Trial Comparing Cangrelor to Clopidogrel Standard Therapy in Subjects Who Require Percutaneous Coronary Intervention (CHAMPION PHOENIX)
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の施行を要する急性冠症候群などの患者を対象とした試験で,PCI施行時に新規抗血小板薬Cangrelorを静注投与することにより,48時間後の虚血性イベント発現率が,クロピドグレルを経口投与する場合に比べ有意に低下した。重大な出血の発現には両群間で有意差はなかった。Cangrelorは,PCI施行例を対象とした3つ目の第Ⅲ相試験にしてようやく有効性を示すことができた。米国のブリガム・アンド・ウィメンズ病院のDeepak L. Bhatt氏が発表した。
Cangrelorは血小板に発現するアデノシン二リン酸(ADP)受容体P2Y12に結合し,血小板凝集を促すADPの働きを阻害する抗血小板薬。速効性があり,投与中止後の作用消失も速いという特徴を持つ。これまでに2つの第Ⅲ相試験(CHAMPION PCI,CHAMPION PLATFORM)でCangrelorの有効性が検討されたが,いずれの試験においてもCangrelorは対照薬に対する優越性を示せず,今回の試験が三度目の正直となるかが注目されていた。
本試験の対象は,PCI施行を要する安定狭心症,非ST上昇型急性冠症候群(NSTE-ACS),ST上昇型心筋梗塞(STEMI)で,P2Y12阻害薬による治療を受けたことのない患者10,900人。対象患者を,PCIの適応が確認された時点でCangrelor静注投与群またはクロピドグレル経口投与群に無作為に割り付けた。一次エンドポイントとして,48時間後の虚血性イベント(総死亡+心筋梗塞+再血行再建+ステント血栓症)の発現率を評価した。
その結果,虚血性イベント発現率は,Cangrelor静注投与群でクロピドグレル経口投与群に比べ有意に低かった(4.7% vs. 5.9%,p=0.005)。また,イベント別ではステント血栓症(0.8% vs. 1.4%,p=0.01)と心筋梗塞(3.8% vs. 4.7%,p=0.02)の発現率がCangrelor静注投与群で有意に低かった。
安全性の主要評価項目である重度(GUSTO基準)の出血の発現率は,両群間で大きな差はなかった(0.16% vs. 0.11%,p=0.44)。
Bhatt氏は,“This study examined a very wide spectrum of patients, which means the results really do apply to a substantial percentage of patients undergoing stent procedures around the world”と述べ,CangrelorがPCIを要する多くの患者にメリットをもたらすであろうとの考えを示した。(中川ゆり子)
■試験の概要
対象
PCI施行を要する以下の患者で,P2Y12阻害薬による治療を受けたことのない10,900人
・安定狭心症
・NSTE-ACS
・STEMI
方法
無作為化二重盲検ダブルダミー*試験
・Cangrelor静注投与群:5,472人
(Cangrelor30μg/kg急速静注および4μg/kg/min点滴静注+クロピドグレル600mg経
口投与+クロピドグレルのプラセボ経口投与)
・クロピドグレル経口投与群:5,470人
(プラセボ30μg/kg急速静注および4μg/kg/min点滴静注+プラセボ経口投与+クロピド
グレル300mgまたは600mg経口投与**)
*対照薬と試験薬の区別が明確につく場合に,各薬剤のプラセボを用意することで薬剤投与時の盲検を維持する試験デザイン。
**投与量は各医師の判断による。
結果
Cangrelor 静注投与群 |
クロピドグレル 経口投与群 |
オッズ比 (95%信頼区間) |
p値 | |
n(%) | n(%) | |||
<一次エンドポイント> | ||||
48時間後の 総死亡+心筋梗塞+ 再血行再建+ステント血栓症 |
257(4.7) | 322(5.9) | 0.78 (0.66~0.93) |
0.005 |
<二次エンドポイント> | ||||
ステント血栓症 | 46(0.8) | 74(1.4) | 0.62 (0.43~0.90) |
0.01 |
心筋梗塞 | 207(3.8) | 255(4.7) | 0.80 (0.67~0.97) |
0.02 |
再血行再建 | 28(0.5) | 38(0.7) | 0.74 (0.45~1.20) |
0.22 |
総死亡 | 18(0.3) | 18(0.3) | 1.00 (0.52~1.92) |
>0.99 |
<安全性> | ||||
Cangrelor 静注投与群* |
クロピドグレル 経口投与群** |
オッズ比 (95%信頼区間) |
p値 | |
n(%) | n(%) | |||
重度の出血 (GUSTO基準) |
9(0.16) | 6(0.11) | 1.50 (0.53~4.22) |
0.44 |
* Cangrelor静注投与群:n=5,529 **クロピドグレル経口投与群:n=5,527 |